妊娠は女性の身体に大きな変化をあたえるほか、胎児へのリスクも考えながら摂る栄養素に関する知識を身に付けることが必要です。環境省による調査では、妊娠前と妊娠中の女性で半数以上のひとが、医薬品やサプリメントを飲んでいたという報告も。今回は、妊娠と出産に関するサプリメントの知識や、注意したい誇大広告について紹介します。
「妊活・妊娠」関連サプリメントを摂る女性が7割以上
2017年に約10万人の妊婦を対象としておこなった環境省の調査によると、妊娠前から妊娠中に医薬品やサプリメントを飲んでいたというひとは、半数以上を占めていたといいます。また、サプリメントで見ると2021年におこなわれた別の調査※で、約74%の女性が服用経験ありと回答(妊娠中と出産後もふくむ)。このうち、いわゆる“妊活サプリメント”は、妊娠が分かった段階で飲み始めたというひとが半数以上でした。
そのサプリメントの成分では圧倒的に葉酸が多く、2番目には鉄、次いでビタミンやカルシウムに亜鉛という順番です。そして、妊娠してからも同じサプリメントを飲みつづけているというひとが8割を超えていました。この結果から、現代女性の栄養素に対する意識の高さがうかがえるとも言えるでしょう。
※調査:株式会社サプリポート
「妊活・妊娠」中に摂りたい成分|その① 葉酸
まず、妊娠中にWHO(世界保健機構)が摂取を推奨している成分は葉酸です。その理由は、胎児の中枢神経がつくられる妊娠初期(6週まで)に葉酸が不足すると、先天性疾患で神経管閉鎖障害(NTD:neural tube defects)の発症率が高まるという研究報告があるから。これについて日本の厚生労働省では、妊娠前から摂取することも推奨されています。
葉酸を摂るときの注意点と摂取量
葉酸は天然でほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜に含まれているものの、その吸収率は高くありません。さらに、水溶性ビタミンの一種で加熱処理によわいため、日本人の食生活では不足しがちな栄養素のひとつです。実際に、妊娠していない30歳未満の女性における葉酸摂取量は300μg/日にも達していないということが、2017年の国民健康・栄養調査で発表されています。
また、食事由来の葉酸(天然葉酸)は「ポリグルタミン酸型葉酸」であるのに対し、サプリメントに含まれるのは合成葉酸の「モノグルタミン酸型葉酸」です。このうち、合成葉酸のほうが吸収率の高いためにサプリメントが推奨されています。
自分で選ぶときには成分表を見て、「モノグルタミン酸型葉酸として400μg/日(0.4㎎/日)」と書かれているかどうか確認するようにしましょう。加えて、過剰摂取とならないように900μg/日(30~64歳では1,000μg/日)を超えないようにすることも大切です。
「妊活・妊娠」中に摂りたい成分|その② 鉄
女性では月経などの背景もあり、妊娠中だけでなく生涯を通してもっとも不足しがちな栄養素が鉄。男性の場合は粘膜の損傷や汗、垢(あか)、毛髪や爪の切り取りなどによって排出される程度で、その量はごくわずかです。これに対して女性の場合は、月経量が40mlだとすると、鉄は20㎎も失われることに。また、妊娠1回につき、約1000㎎の鉄が必要とも言われています。
妊娠時における鉄の不足は、妊婦の理想的な体重増加をさまたげることに加え、免疫機能の低下や低体重児の出産など多くのリスクにつながります。また、胎児の成長はもちろん、さい帯(いわゆる“へその緒”)※や胎盤を正常に機能させるためにも、妊娠前より多くの鉄が必要です。
食事では吸収率の高い動物由来の“ヘム鉄”を摂ることを心がけたり、吸収を高めるためにビタミンCを一緒に摂ったりするのもよいでしょう。さらに、サプリメントを活用して補うのも方法のひとつです。
※さい帯(臍帯):胎盤と胎児をつなぐ、栄養素やガス、老廃物などが行き交う唯一の通路。長さ50㎝ほど、太さ2㎝ほどで、中には2本の動脈と1本の静脈が含まれる。
「妊活・妊娠」中に摂りたい成分|その③ ビタミンやミネラル
鉄や葉酸のほか、妊娠前と妊娠中を通して摂りたい成分はビタミンやミネラルです。なかでも、カルシウムは妊娠中に胎児の身体をつくり、出産後には授乳によって多くがつかわれるため不足はさけたいもの。しかし、日本人のカルシウム摂取量は平均的にすくなく、どの世代においても推奨量に達していません。これをサプリメントで補うというのも、方法のひとつでしょう。
サプリメントではマルチビタミンなどのように、複数のビタミンやミネラルを配合しているものもあります。ただし、ビタミンAやヨウ素、カフェインなど妊娠中に注意が必要となる成分もふくまれている可能性があることに注意しましょう。
もし、不安なときや始めて飲むときには、主治医や専門家に確認してから摂るようにしてください。
「妊娠力Up」「授かり率Up」などの誇大広告に注意!
近年、葉酸やミネラルのほかにも多くの“妊活サプリメント”が登場しています。しかし、これには科学的な根拠のない成分がひそんでいる可能性も。たとえば、2020年に消費者庁が措置命令を発表した、マカをふくむ“妊活サプリメント”がその例です。これには、「授かり率が高まる独自製法」や「大学教授をはじめとする共同研究チームによる機能性試験」などと、信頼感をあたえるような表示がなされていました。(「」内は公開情報の一部を引用)
こうした誇大広告につられないためには、個別に承認をうけた特定保健用食品(いわゆるトクホ)を選ぶというのも方法のひとつです。また、機能性表示食品として、届出の情報を公開している商品※を選ぶというのもよいかもしれません。
多様性ある現代の食生活だからこそ、補助食品のひとつとしてサプリメントを上手に活用していけたらよいですね。
※機能性表示食品の届出:消費者庁の運営する公式サイト「機能性表示食品の届出情報検索」から検索できる。