疲労の原因は活性酸素だということが広く浸透しつつある昨今では、あたらしい視点をもつ“疲労系サプリメント”が続々と登場しています。たとえば抗酸化作用をもつイミダゾールペプチドやグルタチオン、そしてATP(アデノシン三リン酸)の合成に必要な還元型CoQ10やビタミンB1などが代表的です。今回は疲労の種類やしくみから、おすすめの成分について紹介します。
疲労には2種類ある
疲労には、休息によって回復することのできる一時的な疲労と、6カ月以上にわたって生活に支障をきたすような慢性的につづく疲労(慢性疲労症候群)の2種類があります。日本では1991年から研究が始まり、自律神経の機能低下や活性酸素、疲労因子(FF、Fatigue Factor)、筋線維の炎症などさまざまな要因が発見されました。そして今も研究はつづき、謎の多かった疲労のメカニズムが徐々に解明されつつあります。
筋肉の過活動による「末梢性疲労」、筋肉痛とは?
一時的に身体のどこか(末梢性)で起こる疲労は、激しい運動や慣れない作業などにともなう筋肉の負荷や損傷によって疲れを生じるもので、いわゆる筋肉痛です。たとえば階段を上り下りするとき、太ももの前側にある筋肉は上がるときに収縮し、下るときには引き伸ばされます。この2つの動作のうち、筋肉痛を引き起こすのは“下り”。つまり、引き伸ばされながら力を発揮する「伸張性(しんちょうせい)収縮」(エキセントリック運動ともいう)で生じやすいのが筋肉痛の特徴です。
その原因はいくつかあり、「急性(即発性)筋肉痛」の場合は、筋肉内に水素イオンなどがたまって血流が滞るため。「遅発性筋肉痛」の場合は、筋線維の炎症がもとで放出されたプロスタグランジンなどの“痛み物質”を、筋膜※やまわりの結合組織にはたらく神経が感知して痛みを引き起こすためです。
ここで、筋肉痛のタイムラグに加齢の影響はありません。一般的に、運動不足のひとでは毛細血管が発達していないため、筋線維の傷における修復や、“痛み物質”を取り除くのに時間を要するということが原因と考えられています。
※筋膜:筋線維の束を取り囲んでいる薄い膜
「筋肉痛の正体は乳酸」という誤解がうまれた訳
なぜ、乳酸が筋肉痛の正体だという誤解はうまれたのか?それは、運動したあとに増える乳酸が血液中の酸性度(pH)をわずかに酸性へ傾け、これが疲労の原因だという説が広まったから。しかし、この傾きはほんの数十分でもとに戻り、疲労につながるほどの影響はないということが研究で分かっています。
現代において、乳酸は糖質として使うことのできるエネルギー源のひとつです。2017年には運動時に脳がつかうエネルギー源として、乳酸が持久性の維持に役立つと示した研究も発表されています。
同時に、脳のエネルギー源はこれまで血液中のグルコース(ブドウ糖)だけと考えられていた説も一変。脳内にも身体の筋肉と同じく、エネルギー源を貯蔵するグリコーゲンの存在が明らかになりました。運動時にはこの、“脳内グリコーゲン”から乳酸を分解して糖が運ばれ、記憶の形成を担う海馬などの神経機能を発揮するために使われます。※
※この脳内グリコーゲン代謝のことを、アストロサイト・ニューロン乳酸輸送と呼ぶ。アストロサイトは脳内にあるグリア細胞の一種で、グリコーゲンを合成して貯蔵する場所。
「中枢性疲労」の慢性疲労は、5つのストレスが要因
一方、半年以上におよぶ慢性疲労はさまざまな要因で生じる可能性があり、疲労のほかにも吐き気や頭痛、発熱など数々の不調をともなうことも。この要因は、大きく5つのストレスに分けることができます。
【慢性疲労を引き起こす5つのストレス】
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① 人間関係や仕事上の「精神的」ストレス
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② 過重労働などの「身体的」ストレス
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③ 紫外線や騒音などの「物理的」ストレス
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④ 化学物質や残留農薬などの「科学的」ストレス
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⑤ ウイルスや細菌感染などの「生物学的」ストレス
これらが複雑に絡みあって、自律神経や免疫機能、ホルモンバランスなどに影響をあたえながら徐々に蓄積し、慢性的な疲労を引き起こします。このうち免疫機能への影響は、帯状疱疹や口唇ヘルペスなどの発疹(ほっしん)で気づくひともいるでしょう。
また、慢性疲労では神経伝達物質のセロトニンが枯渇(こかつ)し、脳の機能異常をもたらすということがCT検査を用いた検証などで報告も。加えて、脳の自律神経をとりまとめている領域(視床下部と前帯状回)における変化も、運動とデスクワークの両方で見られる変化です。こうした理由から、慢性疲労は「中枢性疲労」として、一時的な「末梢性疲労」と区別されています。
“疲労”に対して期待できる、サプリメントの成分
疲れを感じているひとの血液中では、活性酸素の増加が顕著です。この活性酸素は、ミトコンドリアが糖や脂肪を分解し、エネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)をつくるときに生み出される代謝産物。これが過剰に発生したり、身体にたまったりすると細胞内のタンパク質が酸化されてさまざまな支障をきたします。
この視点でいうと、サプリメントでおすすめなのは抗酸化作用をもつ成分や、ATP(アデノシン三リン酸)の合成に必要な成分がよいでしょう。たとえば、ビタミンC、還元型CoQ10、イミダゾールペプチド、グルタチオン、アスタキサンチン、L-カルニチン、ビタミンB1、クレアチンなどが代表的。
ただし、疲れの原因が「末梢性疲労」か、脳のオーバーワークによる「中枢性疲労」なのかを考えたうえで選ぶことが大切です。慢性疲労の場合は、要因となるストレスを踏まえて選ぶようにしましょう。たとえば、GABAやL-テアニンなどが、“対ストレス成分”としておすすめです。
【おすすめの “疲労回復サプリメント” 成分と作用】
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ビタミンC
(活性酸素に電子を受け渡してほかの分子が不安定になるのを防ぐ)
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還元型CoQ10
(ミトコンドリアにおけるATP合成に必要で抗酸化作用も持つ)
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グルタチオン
(酸化されたビタミンCを還元することで抗酸化作用を増強する)
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アスタキサンチン
(炭素数40からなる赤橙色をした脂溶性色素群の一種で抗酸化作用が強い)
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L-カルニチン
(ミトコンドリア内へ長鎖脂肪酸を効率よく運んで筋肉損傷の修復を早める)
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ビタミンB1
(多くの食物に含まれるアミノ酸の一種で神経伝達物質として興奮を抑える)
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L-テアニン
(茶に含まれるアミノ酸の一種で交感神経の活動を抑えてリラックス作用がある)
50代を境に二極化!「疲労状況2021年」実態調査
2021年におこなわれた全国10万人規模の調査では、全体の8割を超えるひとが「疲れている」と発表されました。しかも、「疲れているひと」よりも「慢性的に疲れているひと」のほうが多いという結果に。さらに、調査開始の2017年からの推移で、「元気なひと」の割合がもっともすくないという現代人の疲労状況は軽視できません。
これを世代ごとに見ると、20~30代で「元気なひと」の割合は全体のわずか1割ほど。また、50代を境に二極化し、「疲れているひと」と「慢性的に疲れているひと」の数がほぼ同じになります。一方、60代では「元気なひと」が増え始め、「慢性的に疲れているひと」を上回るという実態も。つまり、働く世代のうちに「元気なひと」でいるというのは、容易ではないのです。
かしこくサプリメントを選んで、なるべくストレスをためないように「元気なひと」を目指しましょう。