現代ではおよそ3人にひとりが、サプリメントなどの健康食品を活用して健康の保持・増進に努めていると言います。2018年の調査では、これを全世代の中で男女ともに60~69歳がもっとも多く摂取しているという報告も。既存のグルコサミンや香酢などに見るシニア向け商品は光芒一閃、近年ではタンパク質へとその人気が移り替わりつつあるのを知っていますか?今回はサプリメントを、“シニア”という視点から注目し紹介します。
シニアと向き合う最重要課題「フレイル」とは?
超高齢化社会の日本では、“虚弱(Frailty、フレイルティー)”を語源とする「フレイル」という言葉が一般に広まりつつあります。しかし、「フレイル=虚弱」と考えるのは間違いです。日本老年医学会によるとFrailtyという語源は、「しかるべき介入により再び健常な状態に戻るという可逆性(かぎゃくせい)が包含(ほうがん)されている」とのこと。
これは、「フレイルの状態になっても根拠のある手段をつかえば健康な状態に戻ることができる」という風にも言い替えることが出来るでしょう。また、“介入”には身体とこころに関する課題のほか、社会的な活動や経済的な困窮など多くの要素が含まれています。
重要なのは、ひとり一人がそのような状況となる前に出来ることから対策を始めていくということではないでしょうか。
「シニア向けタンパク質」流行と時事その①エビデンス
フレイル予防に対して“食”を考えるとき、健康食品で気軽に取り入れることのできる根拠ある手段のひとつは「タンパク質」です。ここで、シニア向けの商品というと、足や腰に注目したグルコサミンやカルシウムなどを思い浮かべるひともいるかもしれません。
この分野で2020年代における流行の移り変わりは、エビデンスの規模と基準の改変によって位置づけられたとも言えるでしょう。なぜなら今、タンパク質はフレイル予防のための研究報告が数多く発表されているからです。
ある研究では、筋肉量の減少や機能低下を起こすひとつの要因として、タンパクの“同化抵抗性(anabolic resistance、アナボリック レジスタンス)”の存在があることも分かっています。また、タンパク質の代謝に関わる評価指数の「窒素平衡※」がマイナスに傾いた状態(タンパク質の摂取量よりも身体の外へ排出する量が多い状態)では、推奨量より多く摂ることが必要だという報告も。
そして、65歳以上でフレイルの状態にあるひとが高タンパク質食(1.23g/kg/日)を摂ったところ、タンパクの“同化”が増えて窒素平衡のバランスもプラスに改善したという報告があります。こうした研究報告がもととなる情報の拡散もあって、“シニアこそタンパク質が必要”という見解が、一般にも周知されつつあるのかもしれません。
※同化抵抗性(anabolic resistance):タンパク質摂取後に誘導される骨格筋でのタンパク質合成が若年者に比べ、その反応性が低下していること。一般に筋肉は、“同化作用”によって合成され、“異化作用”にとって分解される。
※窒素平衡:ヒト体内の窒素は殆ど食事由来のタンパク質であることに着目し、食事からの窒素摂取量と体外への窒素排泄量(尿、糞便、汗)との差を示す「窒素出納」の収支バランスが取れている状態のこと。
「シニア向けタンパク質」流行と時事その②基準の改変
加えて、「日本人の食事摂取基準2020年版」を見ることでも流行の背景が想像できるでしょう。この2020年版では、近年の研究やさらなる高齢化の進展を踏まえて、2015年版から一部改変されました。そこでは、低栄養とフレイルの予防を視野に入れて、年齢に応じた3段階のタンパク質における目標量の基準が改めて設定されています。
具体的には、50歳以上における下限値が年齢を増すごとに引き上げられた形です。ただ、食の細くなるシニアにとっては十分な量を純粋に食べ物から摂ることはむずかしいもの。ここに健康食品が一役、買うことが期待されています。ただし、サプリメントによるタンパク質摂取での研究はまだ症例数と経過年数が少なく、有意差のあるデータは得られていません。
そして今はまだ、市場にあるタンパク質の関連商品は粉状の形態がほとんどです。一方で、介護の状態にない健康的なシニアにとっては、カプセルや錠剤などの方が便利だというひとも多いでしょう。今後、多くのエビデンスが積まれてくれば、サプリメントとしてのバリエーションが増えていくかもしれません。
シニアのサプリメント選びで重要な視点
一般に歳を重ねていくと腎臓や肝臓といった内臓の機能や、骨そして筋肉の合成など骨格に関する機能も衰えていく傾向にあります。大切なのは、心身の状態を自分でもよく把握すること。健康な状態で摂るなら、一定の相互作用や注意喚起のある成分をのぞいて許容量を超えないかぎり、食品成分は害のないものがほとんどです。
まず、退職したあとに健康診断を受けていないひとや、何かしらの不調を感じているひとは医療機関を受診するところから始めましょう。また、仕事をしていたときと社会活動の範囲が変わって、交流関係や情報源のすくなくなっているひともいます。このような場合はとくに、テレビや雑誌で見かける偏った視点や、親しいひとからの情報をそのまま信じてしまう可能性があるということに注意が必要です。
一度、立ち止まって、「この情報は信頼できるかな?」と考えてみる習慣を身に付けるようにしましょう。
サプリメント選びでおすすめの情報源とは
たとえば血圧が高めでサプリメントを選ぶ場合、インターネットで「血圧・サプリメント」と検索すると、「GABA(ギャバ、γ-アミノ酪酸)」や「サーデンペプチド(イワシのタンパク質を酵素で分解した成分)」など、多くの商品がずらりと出てきます。なんと、“血圧”をターゲットとする成分は約80種類、数にして500を超える商品があるのです。(2022年8月10日時点)
ここで、“結局、何を選べばよいか分からない”という状況になってしまうひとは、国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所が運営する情報サイト「健康食品の安全性・有効性情報」を参考にするとよいでしょう。ここでは成分に関する正確な情報はもちろん、気になる機能性(この例では“血圧”)について摂る前に知っておきたい知識や、成分を摂る以外のヒントも書かれています。そして掲載されている商品は、機能性表示食品として届け出(または認定)された商品です。これなら専門知識のないひとでも、誰かの体験談や偏った情報に振り回されることなく安全に選ぶことができるでしょう。
ただし、病気のために薬を使っているひとや通院で治療を受けているひとは、主治医もしくはかかりつけの薬剤師に相談した上で判断するようにしてください。
結論は、“多様性のある食”を意識すること!
まとめると、サプリメントでシニアが摂りたいのは「タンパク質」を中心とした、より多くの種類の食品成分です。反対に、避けたいのはエビデンスの無い、あるいはデータを持つとしても極めてすくない人数であるものや、日本人が食として経験してきた年数のすくない成分。こうした多彩な食品成分を摂ることについて現代では数々の研究分野で、“多様性のある食”が注目を集めています。たとえば認知機能における研究で、食品の摂取多様性が高いグループでは認知機能の低下リスクが44%も低くなったという報告も。
サプリメントの醍醐味は、ふだんの食事では補うことがむずかしいような多様性のある成分を、ひとつでも多く簡単に取り入れることが出来るという点です。一方で、飲んですぐに心身に対して劇的な変化をもたらすものではありません。長い人生の中で自分に合ったものを上手に取り入れ、活き活きとした健康長寿を目指しましょう。